卒業研究
児童虐待における保護者への支援
~今、親に必要なものとは~
Support to the guardian in a child abuse ―About a thing required for parents now―
医療心理科
中濱千恵 細田美沙紀 冨士松貴博 山口愛 大重智波
要約
児童虐待に対して、様々な防止策が行われているにも関わらず、減少には繋がっていないのが現状である。本研究では、被虐待児への支援だけでなく、児童虐待の要因そのものの解決策を探る為に、親も含めた「家族」に焦点を当てた支援策が必要であると考えた。研究の結果、児童虐待に対する認識が曖昧である事や、育児環境を変えることで児童虐待の防止に繋がる事が明らかになり、我々精神保健福祉士の新たなる介入により、精神面での支援や総合的な自立支援が有効であると考えられた。
目的
近年、児童虐待の相談件数は過去最多を更新し続けており社会的に大きな問題になっている。しかし、年間6万件近い相談件数の多さに対して行政の施策が追いついていないのが現状である。これまで児童虐待の防止策は多々実施されてきたが、被虐待児に焦点を置いたものが多く、親に対する支援策は少ない。そこで本研究では親を対象とした調査と支援策の提案を目的とした。
方法
調査期間:2012年5月~10月
研究1と2/[一般親の分析]アンケート調査
対象者
12都道府県の18歳以下の子供の保護者(対象者平均年齢 平均値39.7標準偏差値5.9)依頼780名 有効回答数552名(母親413名、父親139名)回収率 70%
方法
留置法にて実施し、正確な回答を得る為、無記名にて封をした状態で返却とした
内容
児童虐待の定義等を評定尺度法、SD法の4段階尺度、自由記述等で73項目より構成
研究3/[虐待親の分析]インタビュー調査
対象者
虐待親3名、被虐待児5名(内施設入所児3名)、施設関係者1名
内容
虐待親は虐待に至るきっかけや環境等、被虐待児は虐待経験や親について等
結果
- 研究1/一般親の児童虐待の傾向を分類した。因子分析(バリマックス直交回転)を用いたところ、3因子に収束され、妥当性は「.802」、累積寄与率は64.2%であった。ここから、虐待傾向を3タイプに分類し、「感情型」「体罰型」「完璧主義型」に分ける事が出来た。
- 研究2/一般親の児童虐待に対する理解度と経験の有無を36項目に分けて調査し、その後クロス集計後、X2検定を全ての項目で実施した。結果は、心理的虐待の理解の低さ等、一般親の認識と法律上の定義に相違がある事が分かった。これは虐待だと認識されていないまま多くの親が行っている事を示し、極めて重大な問題と言えるだろう。
- 研究3/児童虐待事例検証の結果、協力者不在や、親自身が何らかの精神疾患を患っているケースが多かった。又、虐待に走ってしまう親は、養育不安があり、対人関係が苦手である為、孤立しがちな傾向があると分かった。
考察
本研究において虐待親や傾向にある親は、家庭環境に何らかの問題がある事や、社会資源と直接結びつくことが困難であること、精神疾患を患っているケースが多いことが分かった。
高玉(1993)によれば、精神疾患と虐待がきわめて近い関係にあり、社会階層がどうであっても親に精神病理的な問題がある限り、再犯率は高いと述べており、今後は児童虐待の現場においても、家族関係の修復や精神面での支援を含む直接的な関わりを、精神保健福祉士が担う事の必要性を強く感じた。そして、今後は虐待親だけでなく、虐待の傾向ごとの適切な支援の提案が出来、親に対する総合的な予防とケアに焦点を当てていく事で児童虐待の減少に繋げていければと思う。