卒業研究
脾の古典検索
~脾の特性の理解のため~
Searching the Classical Texts to Understand the Characteristics of the Spleen
鍼灸美容学科
武田麻衣子 藤江幸子 岡崎綾子 山本けい
要約
古来より、東洋医学では自然の現象を長い間の観察より五つの事象に分類して物事を考えてきた。色体表は五行の特性に臓腑の関連する性質や生理、病理、病状を当てはめ医学に応用したものであり、臓腑それぞれが自然界の事物や人間の体になぞらえ分類されている。臨床において患者の多くに「脾」の病態がみられることを経験し、古典を用いてその手掛かりとなるものを検索した。その結果、「脾」が一つの季節に旺盛というわけにはいかないことや甘味が緩める作用により形あるものを整える働きがあることがわかった。つまり他の臓腑以上に「脾」の働きが必要とされていることを示し、また現代社会おいてはさらに「脾」が酷使されていることが示唆された。
目的
臨床実習を通じて多くの患者が「軟便、むくみ、体のだるさ」などの共通した悩みを抱えている事に気づきました。東洋医学では「脾」の機能が低下による症状と捉えており、多くの患者に同様の機能低下がみられたことに疑問を感じました。そこで、その疑問を検証することを目的として、東洋医学の「脾」という臓腑の特徴について調べることにしました。
方法
東洋医学の基礎となる古典『黄帝内経素問』『黄帝内経霊枢』に記載されている「脾」やそれに関連する内容について検索し、その共通点及び相違点を調べました。
その中でも『素問』蔵気法時論(22)篇、『素問』太陰陽明論(29)篇に記載されている季節の中で「脾」と「長夏」の関係、味の中で「脾」と「甘味」の関係について更に詳しく調べることで「脾」についての特徴について整理しました。
結果
土用とは1年のうち不連続な4つの期間で、四立(立夏・立秋・立冬・立春)の直前約18日間のことで、「脾」の五季である「長夏」は、夏の土用ともいわれています。これは各季節において脾がよく働く時期があることを示しており、「脾」が「長夏」だけでなく、各季節の間において旺盛になることを示しています。また、「脾」の五味である「甘味」は、脾気を補うだけでなく、緩める作用により形あるものを整える働きがあることがわかりました。しかし「甘味」の過剰摂取は「脾」の機能低下を招くことがわかり、さらに他の臓器にも悪影響を及ぼす事もわかりました。つまり、「甘味」は「脾」の働きを補う作用があることのみならず他の臓腑の働きにも影響があることがわかりました。「甘味」は適度な摂取が求められ「脾」のみならず臓腑全体の機能に影響を及ぼすことが示唆されました。
考察
「脾」は主に消化吸収・栄養運化・水液運化により後天の精を全身にめぐらすという大きな働きを担っているため、常に私たちの生活に密着しており、「脾」は休まることはないといっても過言ではありません。そのため「甘味」は、常にその摂取が求められていると考えられます。ただし、現代社会は精神的疲労が多いことや、すぐに食物が手に入る飽食の時代であることから、「甘味」を必要以上に摂取していると考えられます。必要以上の「甘味」の摂取は、脾の機能低下をさらに招いた結果、現代人は慢性的な「脾」の運化失調に陥っていると思われます。さらに全身の臓腑への影響も合わせ、臨床実習中に感じた患者の共通した悩みに繋がったと考えます。今後鍼灸師として臨床の場にたつ際には、患者の生活習慣などを医療面接などでしっかり把握し、「脾」の機能低下がどのような状態であるかを判断し、積極的に「脾」の機能を向上させる治療を行っていくべきであると考えます。