卒業研究
PAM染色におけるメセナミン銀の反応時間の検討
Considering the Reaction Time of Methenamine Silver in PAM Staining
臨床検査技師科
足立勇吾 大内絵里子
要約
PAM染色は腎糸球体基底膜の変化が見られるため、腎疾患の診断に用いられる。しかし、メセナミン銀の反応に時間がかかるため、PAM染色におけるメセナミン銀の反応時間について検討を行なった。本論文では、メセナミン銀液の加温方法の違い(恒温槽、孵卵器)による反応時間の差とメセナミン銀原液の予備加温の有無による反応時間の差の2つの検討を行なった。これらの検討から恒温槽を用いて予備加温を行なう方法が最も反応時間を短縮できるという結果が示された。今後は反応時間の短縮と染色の安定性の両立を求めた検討を行なう必要があると考える。
目的
PAM染色は腎糸球体基底膜の変化をみるのに最適な染色であり、腎疾患の診断に用いられる。近年、検査の迅速化が求められているが、PAM染色ではメセナミン銀の反応に時間がかかる。そこで今回、PAM染色におけるメセナミン銀の反応時間の検討を行なった。
方法
染色性の評価基準:本研究の再現性の確保のため、以下の染色基準に基づき染色を行なった。
- 糸球体基底膜を黒く染色を行なう。
- 血管内皮細胞の網目状構造がわかるまで黒く染色を行なう。
- 尿細管内腔が過染しない程度に染色を行なう。
染色手技の検討
- メセナミン銀液の加温方法の違いによる染色時間の差
メセナミン銀液の加温に恒温槽と孵卵器の2種類の機器を用い、反応時間にどの程度差が出るのか検討した。 - メセナミン銀原液の予備加温の有無による染色時間の差
メセナミン銀原液の予備加温の有無によってメセナミン銀液の染色時間にどの程度差が出るのかについて検討した。
結果
恒温槽 | 孵卵器 | ||||
---|---|---|---|---|---|
予備加温時間 | 10分 | 10分 | 30分 | ||
メセナミン銀染色時間 | 約30分 | 8~10分 | 90~105分 | 85分 | 60分 |
検討1ではメセナミン銀反応に有した時間は、恒温槽では約30分、孵卵器では90~105分であり、恒温槽の方が孵卵器と比べ1時間染色時間が短縮された。検討2では恒温槽でメセナミン銀の反応に有した時間は、予備加温した場合では8~10分であり、予備加温を行なわなかった時と比べ約20分短縮された。孵卵器で予備加温を10分行なった場合、反応時間は85分であり、予備加温を行なわなかった時と比べ5~20分短縮された。予備加温を30分行なった場合では、反応時間は60分であり、予備加温を行なわなかった時と比べ、30~45分短縮された。
考察
今回の検討の結果から恒温槽にて予備加温を行なう方法が最もメセナミン銀の反応時間が短縮した。まず、空気と比べて液体の方が熱伝導率は高いため、恒温槽の方がメセナミン銀液の温度が上がりやすく、メセナミン銀の反応が速くなったからであると考えた。また、孵卵器では試薬の液温が上がりにくいことも影響していると考えた。2つ目に予備加温を行なうことでメセナミン銀反応の促進がさらに加速したことも要因であると考えた。しかし、反応時間が短縮される分、最適な染色性で反応を止めることが難しいということも判明した。