卒業研究
PAM(Periodic Acid-Methenamine silver)染色における反応時間の短縮と染色性の安定化についての検討
Achieving Greater Stability in Stainability and Reduction of Reaction Times in Periodic Acid-Methenamine Silver Staining
臨床検査技師科
大西悠介 藤原司
要約
PAM染色は腎疾患診断における有用な染色の一つである。近年、様々な方法で時間短縮が試みられているが、それに伴い、反応停止の見極めが困難となる為、染色性が安定しないという問題がある。そこで、銀液へゼラチンを添加し、TSC(チオセミカルバジド)増感操作を追加する事で、さらなる時間短縮と染色性の安定化を試みた。結果、ゼラチンによって銀鏡反応が抑制されただけでなく、TSCによって反応時間は10min以上も短縮された。さらに、反応停止時の糸球体基底膜は濃く明瞭に染色され、また、尿細管の刷子縁も染色される為、反応終了の指標として用いることができ、従来法よりも一層反応停止の見極めが容易になったといえるだろう。
目的
PAM染色は腎糸球体基底膜を明瞭に染め分け、糸球体基底膜における病変部を検索しやすくする重要な染色法であり、腎疾患の診断には欠かせない有用な染色法の一つである。近年、検査の迅速化が進む中、PAM染色も様々な方法で染色時間の短縮が試みられている。しかし、PAM染色は反応時間の短縮に伴い、最適反応時間の範囲も短縮される為、反応停止のタイミングを見極めることが困難になり、染色性が不安定となる事が知られている。また、PAM染色は非特異的な反応として銀鏡反応も起こす為、より一層反応停止の見極めが困難となる。私たちの実習先病院では、メセナミン銀液へアルブミンを添加する事で銀鏡反応を抑制し、予備標本を作成する事で染色不良に対応していた。以上のことから、本研究では更なる反応時間の短縮と反応停止のタイミングの見極めを容易にすることを目的とした染色方法について検討、考察した。
方法
対象は糸球体病変部のない腎臓を用いた。また、染色方法・試薬調整は、大阪医科大学附属病院病理部の方法に則って行なった。5%アルブミン水溶液の代わりに1%ゼラチン水溶液を添加し、染色性および反応時間の影響について確認した。続いて、染色法にTSC(チオセミカルバジド)増感操作を追加し、染色性および反応時間の影響について確認した。
結果
1%ゼラチン水溶液で代用したところ、染色性は良好であり、反応時間は5分程度短縮された。また、アルブミン同様、銀鏡反応の抑制も認められた。染色法にTSC増感操作を追加したところ、糸球体基底膜はより濃く明瞭に染色され、良好な染色結果が得られた。反応時間は10分以上短縮された。また、尿細管の刷子縁も染色されることが分かった。
考察
本研究によって、ゼラチンはアルブミン添加による作用と同様の効果を発揮し、さらに反応時間が短縮されことが確認できた。この事から、代用として十分に価値があると考えられる。さらに、TSCを用いることで反応時間はさらに短縮し、鍍銀反応部位は従来法より濃く明瞭に発色し、反応停止時間の見極めが容易になることがわかった。また、尿細管の刷子縁も染色され、反応終了の指標として用いることができ、従来法よりも一層容易になったといえるだろう。以上のことから、TSC増感操作を追加することで、反応時間を短縮し、染色性が安定することが分かった。今後は糸球体病変のある検体を用いて、腎疾患診断に影響がない事を実証し、染色性が良好な標本を安定して提供できるように検討していきたい。