卒業研究
読字記憶に与える音読・黙読及び色彩の効果
The Impact of Color on Oral and Silent Reading in Language Learning
医療心理科
貝谷詩織 亀井藍梨 川嶋和 岸良崇史 鮫島伊吹 松村茜 松村梓
要約
本研究は読字記憶において音読・黙読のどちらが有効か、また、文字を表記する色は何色が良いのかを調査することで、より効果的な学習方法として提示することを目的とした。調査結果から、文字を表記する色は青、暗記する際には黙読で暗記することが効果的であると明らかになった。音読を推奨している学校教育において、黙読も重要視される必要がある。色においては、プレゼンテーションソフトや参考書、授業ノートなどの重要なポイントを青で表記することが学習において効果的である。
目的
文部科学省は平成30年2月、デジタル教科書を正式な教科書に位置付ける学校教育法改正案を決定した。教育課程の一部において、通常の紙の教科書に代えてデジタル教科書を使用できることとした。また、このような状況において、ペーパーレス化により書く機会が減少し、読む機会が増加する可能性がある。本研究では、以上のことを踏まえ、文字を覚える際に、音読・黙読のどちらが読字記憶において有効であるか、また文字を記憶する際、どの色を使用すると有効なのかを調査することで、より効果的な学習方法として提示することを研究の目的とした。
方法
問題用紙に書かれた14人の名前を3分間暗記してもらう。その後、2分間の再生テストを実施する。その行程を5回 (黒・赤・青・橙・緑)分繰り返す。この実験を音読・黙読と2日間に分けて行う。なお、実験の所要時間は30分であり、調査対象者は291人である。対象者のうち音読・黙読の比較対象は92件、5色の比較は291件である。調査期間は2018年10月19日〜11月22日。場所は大阪医療技術学園専門学校各学科の教室にて調査を行なった。
結果
5色の中では青が最も点数が高く、有意差が確認できた。次いで、赤・黒の得点が高かったが赤と黒の2色間に有意差はみられない。音読と黙読の比較では黙読の方が有意に得点が高い。これらの結果から、文字を記憶する際には黙読で暗記し、文字を表記する色は青で示すと記憶しやすいといえる。
考察
本研究の実験前の段階では、赤が有効であり、音読・黙読においては音読が有効であるという仮説を立てた。しかし、暗記は黙読で文字を表記する色は青が記憶しやすいという結果になった。仮説と結果が異なった理由として音読・黙読の比較においては、環境設定が不十分であったことが考えられる。色彩においては、赤は自己主張が激しく、小さくても目立つ色であるとされている。危険を表すサインとして利用されていることから、脳に対しての刺激が強い色だということが考えられる。これによって楠本ら(2014)が行った脳波を使用した記憶実験では、赤が1番有効であるという結果が出た可能性が考えられる。青は一般的に、長時間の集中力を助ける色であり、冷静な判断力を促す作用があるとされているため、1番有効であるという結果になったと考えられる。今回の研究から、学校・教育において重視されがちな音読に加え、黙読の有効性についても認識される必要性があると考えた。それに加え、単語を覚えるには青が有効であることから、自主学習の際にも青を使用することが良いといえるだろう。また、プレゼンテーションソフトの重要語句の部分を青色で表記した資料や教材を講義や職場での会議で使用すること、名刺の名前の部分を青色に変更したりすることで、より相手の記憶に印象付けることもできるのではないかと考えた。最後に本研究では文字を記憶する速度や記憶の持続性に関しては調査されていない。今回の改善点や上記のポイントを踏まえた上で今後の研究に委ねる必要があると考えている。