卒業研究
マスク着用によるマスター負荷心電図検査への影響の検討
Study on the Impact of Mask-Wearing during Master 2-step testing
臨床検査技師科
二星楓果 福居琢磨
要約
COVID-19の流行に対し、大阪国際がんセンターでは感染対策の観点から検査時にマスクの着用をお願いしている。そこで運動を伴うマスター負荷心電図検査において、マスク着用の有無が検査に与える影響を検討することにした。マスク未着用、マスク着用、マスク着用かつノーズクリップ装着の3条件でマスター負荷心電図検査を行い、結果を比較検討した。マスター負荷心電図検査ではマスク着用が検査結果へ影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。ただしマスクを着用し、更に高負荷がかかると心電図診断や患者の体調への影響が考えられる。このため、実臨床では十分に感染対策を講じ、マスク未着用で検査するなど患者への配慮が必要である。
目的
COVID-19の流行に対し、大阪国際がんセンターでは新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から検査時にマスクの着用を推奨している。しかし、マスクの着用の有無によって検査結果が異なる可能性は否定できず、場合によっては検査結果が治療方針に影響を及ぼす可能性は否定できない。そこで、マスク着用の有無がマスター負荷心電図検査結果に影響するかどうかを検討する。
方法
- マスク着用条件別(①マスク未着用 ②マスク着用 ③マスク着用かつノーズクリップ装着の3 種)にマスター負荷心電図(ダブル3 分間)を行った。心電図波形の検討項目は心拍数、QRS 軸、PR 時間、QRS 時間、QT 時間、QTcF 時間、QTcB 時間、SV1、RV5、SV1+RV5 である。また、息苦しさの間接的な評価として血中酸素飽和度(SpO2)もモニタリングした。
- 結果の評価には心電図波形項目では負荷前と負荷直後との値の変化率を、運動負荷中SpO2では負荷前と運動負荷中の最低値との変化率を使用した。マスク未着用群とマスク着用群との間、またマスク未着用群とマスク着用かつノーズクリップ装着群との間でそれぞれの結果を比較検討した。
- 有意差検定にはWilcoxon signed-rank testを用いた。
結果
マスク未着用群とマスク着用群との間で、SV1のみ有意に高値を認め、心拍数、QRS軸、PR時間、QRS時間、QT時間、QTcF時間、QTcB時間、RV5、SV1+RV5、運動負荷中SpO₂など他の項目では有意差を認めなかった。マスク未着用群とマスク着用かつノーズクリップ装着群との間では、心拍数が有意に上昇、QT時間が有意に短縮、運動負荷中SpO₂で有意に低値を認めた。
考察
マスク着用の場合、マスク未着用時よりSV1が有意に高値を示した。SV1の実測値では0.1mV 以下の差であり、心電図波形による診断には影響しない範囲の差であった。よってマスター負荷心電図検査において、マスク着用が検査結果に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。以上より、現在マスクを着用した感染対策下で行っているマスター負荷心電図検査は、COVID-19流行前の検査と同等の診断精度で実施できていると考えられる。
マスク着用かつノーズクリップ装着のように更に高負荷がかかると、マスター負荷心電図検査時の心拍数上昇 SpO2低下が起こりうる。QT時間の短縮は心拍数で補正したQTcF時間、QTcB時間で有意差を認めず、波形の解釈に影響はない。心拍数、SpO2 は心電図診断や患者の体調に影響する因子であり、実臨床においては、十分な感染対策を講じた上でマスクを着用せずに検査するなど患者への配慮が必要である。