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卒業研究

Trial of Speech and Hearing Therapy for Gerstmann’s Syndrome

言語聴覚士学科

渡辺華

目的

症例は60歳代、女性、右利き。1年前に転移性脳腫瘍と診断され、右前頭葉と左頭頂葉に対し開頭腫瘍除去術を施行した。右手の不使用が目立ち、ゲルストマン症候群(手指失認、左右障害、失算、失書)の4徴を呈していた。病前は着物の着付け教室を経営しており、復職を希望していたが、手指失認、左右障害の影響で自身の着衣も難しい状況であった。そのため、まずは生活の質を上げるために、書字能力の向上、右手使用の習慣化、失算・失書に対する代償手段の獲得を目指すこととした。ゲルストマン症候群の4徴すべてを呈する症例はまれであり、これまでゲルストマン症候群に対する言語聴覚療法の報告はないことから、その訓練効果について検討した。

方法

書字課題として①写字、②漢字変換課題、③メモリーノートの作成を段階的に行った。また、④電卓を用いた計算課題、⑤スマートフォンでの音声入力やボイスメッセージ作成を反復練習した。いずれの課題においても、右手の使用を意識付けして行った。

結果

漢字の書字が向上し、右手の使用や自己の左右障害についても改善を認め、これに伴い自身での着衣が可能になった。また、電卓やスマートフォンの使用も一定の学習効果が得られた。一方で、他者に対する左右障害は残存した。

考察

Mayerらは、ゲルストマン症候群を心的イメージの障害と位置付けている。そう捉えると、本症例における失算や失書についても、数字や文字の空間的な配置や操作の障害と考えられ、手指失認、左右障害においても空間内におけるボディイメージの障害が根底にあることで説明できる。

ハサミ等の道具操作に対する作業療法訓練では、心的イメージの手がかりとして“段階付け”、“物に押し付ける”等の手がかりを与える療法が有効であったとしている。本症例に対しても書字課題では、まず写字によって“文字の視覚的イメージを活性化”し、次に“仮名文字を頼りに漢字を想起”させ、さらにメモリーノートの作成によって“心的イメージからの文字想起”へと、段階的な訓練を実施した。また、計算課題においても電卓を用いることで“手を押し付ける感覚”を得た後、スマートフォンの活用へと段階を進めた。その結果、心的イメージ想起が賦活化されたことで書字能力が向上し、さらに自己の左右障害が改善してきたことで着衣や電卓・スマートフォンなどの代償手段獲得にも繋がったと考えられる。これに対し、他者に対する左右障害が残存した要因として、自己に比べ他者の左右を認識するためには、左右のイメージ想起に加え、左右の心的回転操作が必要となることが考えられる。

今回、心的イメージ想起に対する言語聴覚療法の有効性が示された一方で、イメージ操作の改善には至らなかった。ゲルストマン症候群がQOLに与える影響は大きく、個々の生活障害に焦点をあて、心的イメージの“操作”にどうアプローチするのか、今後のさらなる検討が期待される。

参考文献

  1. Mayer L.et al: A pure case of Gerstmann syndrome with a subangular lesion. Brain 122: 1107-1120, 1999
  2. 山田裕子ら:作業療法29巻3号 352-362,2010

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